「社会保険労務士 医療・福祉・介護総合研究所」 は、医療 (病院、診療所、歯科医院)・福祉・介護施設を専門に研究を行う研究機関(社会保険労務士 (社労士) 事務所)で、就業規則や人事評価表の作成など特に人事・組織マネジメントの分野に強みがあります。

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トピックス

平成23年10月から、子ども手当の支給金額が変更になりました。
平成23年9月までは、0歳~中学校卒業まで(15歳に達した日以降最初の3月31日まで)の子ども一人につき、月額13,000円が支給されていましたが、平成23年10月からは、子どもの年齢や出生順に応じて受け取れる手当の金額が下表の通りに変更となりました。

なお、平成24年度以降の子ども手当の支給金額等は、現在、政府において議論されているところです。

支給対象年齢

支給月額

0歳~3歳未満

15,000円

3歳~小学校修了前

第1子・第2子

10,000円

第3子以降15,000円

中学生

10,000円

ここで、子どもの貧困率ということについて考えてみましょう。

全国民の年間の可処分所得を少ない方から並べ、中央の金額(平成21年は224万円)の半分の水準(貧困線という、平成21年は112万円)に満たない世帯員の割合を相対的貧困率といい、そのような可処分所得の水準の家庭で育てられる18歳未満の子供の割合のことを子どもの貧困率といいます。
2000年代中頃の所得再分配の前後でみた子どもの貧困率を国際比較すると下表のようにまとめることができます。

 

当初所得

再分配後

オーストリア

27.3

11.8

ベルギー

22.9

10.0

カナダ

23.7

15.1

チェコ

30.7

10.3

デンマーク

13.1

2.7

フィンランド

15.8

4.2

フランス

21.6

7.6

ドイツ

27.0

16.3

アイルランド

25.8

16.3

イタリア

24.4

15.5

日本

12.4

13.7

オランダ

20.0

11.5

ニュージーランド

27.4

15.0

ポルトガル

17.5

16.6

スウェーデン

15.0

4.0

スイス

12.8

9.4

英国

25.1

10.1

アメリカ

27.4

20.6

(単位:%)

この国際比較をみると、日本の所得再分配後の子どもの貧困率は13.7%となっており、これは当初の所得における子どもの貧困率12.4%を上回る結果となっています。

このように再分配前後で比較した場合に、再分配後の方が子どもの貧困率が高くなるのは上表の国の中では日本のみであり、また、再分配後における日本の子どもの貧困率は、国際的にみて高い水準にあることがわかります。

平成23年版厚生労働白書では、子育て世代の相対的貧困率が上記のように所得再分配後で増加することを示した上で、社会保障機能の再分配機能が高齢世代への移転に偏りすぎ、若年の貧困世代に及んでいないという問題もあることを指摘していますが、今後の子ども手当などの社会保障政策を考えるにあたっては、このような所得再分配後の子どもの貧困率を改善していくという観点から社会保障制度を設計していくことも必要でしょう。

(資料出典)
平成23年版厚生労働白書
平成22年国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)
「10月からの子ども手当Q&A」(厚生労働省)

【2011.11.23】行政刷新会議の
提言型政策仕分けについて(医療・介護制度)

平成23年11月22日に行われた行政刷新会議の提言型政策仕分けにおいて、医療サービスや介護サービスのあり方について議論が行われましたが、その評価結果として以下の方向性が示されました。

診療報酬
  • 勤務医と開業医、また診療科目間について、リスクや勤務時間に応じて報酬配分を大胆に見直す。
  • 医師不足改善のため、勤務医と開業医とのアンバランスや地域別・診療科別の医師不足の状況を踏まえて、メリハリの効いた診療報酬改定を早急に行うべき。
  • 中長期的には、開業医と勤務医の収入をバランスさせることを目指し、開業医・勤務医の平準化を進める。
  • 医療サービスの価格全体の前提となる診療報酬本体(医師の人件費等)については、「据え置く」「抑制」という意見があったことを重く受け止めて対応すべき。
  • 診療報酬の加算が効果的に待遇改善につながるよう、勤務条件が厳しい診療科を中心に待遇改善につながる条件付けを行うべき。
後発医薬品普及と薬価制度
  • 先発品の薬価は後発医薬品(ジェネリック)の薬価を目指して大幅に引き下げ、医療費の支出と国民の負担を最小限にすべき。
  • 先発品薬価と後発品薬価の差額の一部を自己負担とすることについて検討すべき。
  • 医師・薬剤師から主な先発品・後発品のリストを患者に提示する義務を課すことについても検討すべき。
  • ビタミン剤など市販品類似薬については、自己負担割合の引き上げを試行し、一部を医療保険の対象から外すことについても検討すべき。
介護保険等
  • 現役並み所得のある者については、世代内の公平な支え合いの観点、医療保険とのバランスを考慮し、利用料(現在は1割負担)を見直すべき。
  • 65歳以上の低所得者に対する保険料軽減策を強化すべき。
  • 軽度者の対象者に対する生活支援については、自立を促す観点から保険給付のあり方を見直すと同時に、重度化を予防する他の有効な手段の拡充についてもあわせて検討すべき。
  • 介護保険サービスとしっかり連携した良質な高齢者住宅を普及させるべき。
  • 介護職員の処遇改善については、一時的な交付金よりも、介護報酬の中で対応し、事業者の内部留保がある場合にはその活用を行うべき。
  • 処遇改善のために介護報酬を加算する場合には、現に処遇改善につながる仕組みを整備すること。
  • 第2号被保険者(40歳以上65歳未満)の介護保険料については、世代内の公平な支え合いの観点から、所得に応じた拠出(総報酬割)を医療保険と同様にまずは一部導入すべき。
  • さらに今後、高齢者の介護保険料を軽減し、所得に応じた拠出(総報酬割)を全部導入することについて検討すべき。

(資料出典)
行政刷新会議「提言型政策仕分け」評価一覧結果より

【2011.11.20】急性期病床群(仮称)の設定について

現在、医療機関における病床については、精神病床、感染症病床、結核病床、療養病床、一般病床の5つの区分に分類されていますが、このような病床の機能分化の現状については、以下の点を指摘することができます。

  • 病床の機能分化について、医療法上での対応として、これまでは長期療養対応の体系化を図ってきた一方で、一般病床については、診療報酬上は、病院の機能に応じて、多様な病院・病床が位置づけられていますが、医療法上は、その他病院としての区分しかなされておらず、同じ病院でも多様な患者を対象とするものが併存し、機能分化が明確になっていません。
     
  • 我が国は、国際的にみて人口当たりの病床数は多くなっている一方、病床当たりの医師、看護職員数やスタッフ数も少なく、急性期病床(日本では一般病床)間で比較した平均在院日数は長い一方で、病床当たりの医療従事者と平均在院日数の間には、相関関係があります。
     
  • 近年、平均在院日数の短縮は進んでいるものの、一方で、インフォームドコンセントの実施、医療安全の確保、医療技術・機器の高度化等により、医療機関・スタッフの業務は拡大している状況です。
     
  • さらに、急性期治療を経過した患者に対し、その受け皿となる病床や在宅療養を支える機能の不足がみられます。

こうした現状に鑑み、厚生労働省は、以下の3点を病床区分の見直しに関する論点として、社会保障審議会医療部会に提示しました。

  • 患者の疾患の状態に応じ良質かつ適切な医療が効率的に行われるよう、急性期医療への医療資源の集中投入や、亜急性期・慢性期医療の機能分化・強化等により、入院医療の機能の明確化、強化を図り、そしてその機能を国民・患者に明らかにしていく必要がある一方で、これまでもこうした方向性はあらゆる機会で示されてきたものの、なかなか実現には至っていない状況です。そこで、こうした考えを医療法においても明記し、その方向性に沿って取り組む姿勢を明らかにするため、国、都道府県及び医療機関について、病床の機能分化等の推進に関する責務規定を設けてはどうか。
     
  • 特に、急性期医療については、社会保障・税一体改革成案においても、2025年に向けた取組として、医療資源の集中投入を図るとされており、これにより機能強化を図ることで、病院医療従事者の負担の軽減や専門医等の集約による医療の質の向上等が図られ、もって、早期の社会生活復帰が可能となることが期待されます。そこで、機能分化・強化を推進する取組の一環として、医療法上、一般病床について、新たに急性期医療を担う病床群(急性期病床群(仮称))を位置づけることとしてはどうか。
     
  • 急性期医療から引き継ぐ亜急性期等の医療についても機能分化・強化が必要であるが、病床と機能が「急性期対応」として一致する急性期病床と異なり、亜急性期等の病床は診療報酬上の評価も様々であり、多様な機能を有している中で、制度上位置づけることについてどう考えるか。

このような論点を踏まえ、厚生労働省は、一般病床の中に急性期病床(仮称)を制度的に位置づけていくことを求めていく考えを明らかにし、急性期病床群(仮称)を制度上位置づけるとした場合の論点として、以下の点を提示しました。

  • 急性期病床群(仮称)においてのみ急性疾患に対応可能とするという法的構成は現状に鑑みると困難と考えられることから、急性期病床群(仮称)については、現行の「病床の許可」と同様の仕組みではなく、例えば、都道府県知事による認定を行うといった仕組みとしてはどうか。
     
  • 急性期の患者の状態に応じた良質かつ適切な医療を効率的に提供するため、急性期病床群(仮称)については、人員配置や構造設備基準だけでなく、その病床群において、急性期の患者に適切な急性期医療が効率的に提供されているかどうかといった機能についても、認定にあたっての要件としてはどうか。現行の診療報酬においても一部機能に着目した評価を行なっているが、こうした制度を導入することにより、医療法においても、人員配置や構造設備基準だけでなく機能を評価する仕組みを設け、他の政策手段と連動して医療提供体制の強化に取り組むことが有効ではないか。
     
  • 急性期病床群(仮称)の認定要件を継続的に満たしているかを確認するために、認定について、更新制を導入してはどうか。等

(参考資料)
第23回社会保障審議会医療部会資料より(平成23年11月17日)

【2011.11.10】後発医薬品の使用促進について

医療費は、2010年度の概算で対前年度比で3.9%増の36.6兆円となり過去最高を更新していますが、このうち調剤費の占める金額は6.1兆円で、医療費全体の16.6%を占めるに至っています。

医療費は今後ますます増加していく傾向にあると考えられますが、政府は医療費を抑制するため後発医薬品(ジェネリック医薬品)の普及を図りたいと考えております。
後発医薬品とは、新薬の特許が切れた後、厚生労働省の承認を得て販売されるものであり、新薬と同じ成分・同じ効き目で、一般的に新薬より安価な価格設定になっている薬のことを指します。

他の多くの先進諸国では、後発医薬品の普及率(数量シェア)は50%を上回っておりますが、我が国においては、平成21年9月時点での後発医薬品の数量シェアは20.2%、金額シェアは7.6%、また、調剤の電子レセプトにおける後発医薬品の調剤率(数量ベース)は、平成22年4月時点で21.8%、平成23年3月時点で22.4%となっており、その普及が遅れております。

もし仮に、日本国内での後発医薬品の普及率が欧米並みとなれば、2兆円規模での医療費の圧縮が可能となり、また、後発医薬品の普及は患者の負担軽減にも資することから、政府は、平成24年度までに後発医薬品の数量シェアを30%以上とすることを目標に、「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」(平成19年10月)を策定し総合的な取組を行なっている他、社会保障・税の一体改革成案におても「後発医薬品の更なる使用促進」が医療・介護等分野における具体的改革項目として示されているところです。

このような状況の中で、平成23年11月9日に行われた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会では、後発医薬品の普及に向けて、新たにいくつかの方針が厚生労働省により提示されました。

1.後発医薬品調剤体制加算について

課題

平成22年度診療報酬改定において後発医薬品の使用促進策として、薬局の調剤基本料における後発医薬品調剤体制加算の見直しが行われましたが、後発医薬品の使用状況の調査結果に対する中医協検証部会(以下、検証部会)の調査結果では、平成23年の後発医薬品調剤率(数量ベース)は平成22年と比較してわずかではありますが増加しているとともに、個々の保険薬局においても調剤率が高い方に移行してきています。

その一方で、約半数の保険薬局は依然として本加算を算定しておらず、保険薬局の対応は2極化している状況です。

対応策

このような状況を踏まえ、保険薬局のさらなる取り組みを促すため、全体の数量をさらに引き上げるためのインセンティブとなるよう調剤報酬の算定要件を含めた加算のあり方を検討することとしました。

また、調剤数量算定にあたってのインセンティブを合理的に確保する観点から、診療報酬上の後発医薬品の扱い、あるいはその他薬剤の算定上の扱いを検討することとしました。

2.後発医薬品に関する情報提供について

課題

ジェネリック医薬品軽減額通知には一定の効果がみられているものの、実際に受け取っている患者はまだ少なく、また、患者が後発医薬品に切り換えようと思ったきっかけの中には、薬剤師からの説明や後発医薬品に関する宣伝等の割合が高い一方で、薬局で後発医薬品への変更を希望していながら、後発医薬品がない薬であることや既に後発医薬品が処方されていることを知らない患者がいます。

対応策

このような状況を踏まえ、後発医薬品に関する情報提供(価格情報を含む)を充実させる手段として、保険薬局での調剤に際し患者に渡される「薬剤情報提供文書」を活用することを検討することとしました。

3.後発医薬品使用体制加算について

課題

平成22年度診療報酬改定において、医療機関の薬剤部門が後発医薬品の使用を促進するための体制を整えるとともに、後発医薬品の採用品目数の割合が20%以上の場合の加算を創設したところですが、検証部会の調査結果では、加算を算定している病院は平成23年度においても、依然として少ない状況です。

また、検証部会の調査結果では、病院における入院患者への後発医薬品の使用をすすめる要件及び医師の使用をすすめる要件として、「処方する際の診療報酬上の評価」という回答がありました。

対応策

このような状況を踏まえ、医療機関におけるさらなる取組をすすめるため、保険薬局における後発医薬品調剤体制加算を視野に入れつつ診療報酬上の評価についての検討を行うこととしました。

4.処方せんのあり方について

課題

検証部会の調査結果では、保険薬局が後発医薬品への変更をすすめるための要件として、「一般名処方が普及すること」との回答が最も多く、医師に望むこととして、「一般名処方がすすむこと」との回答がありました。その一方、医師の立場として後発医薬品の処方をすすめる要件として、「一般名処方を行いやすくする環境の整備」との回答がありました。

また、検証部会の調査結果では、「後発医薬品への変更不可」欄に署名がある処方せんの割合は31.0%と減少傾向にあります。

その一方、主に一部の医薬品が変更不可であるにもかかわらず、「すべてを変更不可」として署名をしたケースもあるのではないかと伺えます。
また、保険薬局においては、後発医薬品の調剤について「薬効によっては取り組んでいる」との回答が29.4%あり、後発医薬品の使用をすすめる上で医師に望むこととして、「患者が希望する場合、処方せんに変更不可の署名をしないこと」、「一般名処方とすること」との回答が多くありました。

対応策

このような状況を踏まえ、保険薬局における医薬品(特に後発医薬品)の在庫管理の負担を軽減するため、(1)医師が一般名処方を行うこと、また、諸外国の様式を参考にしつつ、(2)個々の医薬品について変更の可否を明示する(個別の変更不可欄を設ける等)様式に変更すること、について検討することとしました。

(資料出典)
中央社会保険医療協議会総会資料(平成23年11月9日)
「医療業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」『秀和システム』(水田吉彦)

平成23年10月31日、社会保障審議会介護保険部会が行われ、

  1. 介護納付金の総報酬割の導入、
  2. 介護サービス利用料の引き上げ、
  3. 1号保険料の低所得者の保険料軽減強化 等

について議論が行われました。その概要をまとめると以下の通りとなります。

1.介護納付金の総報酬割の導入について

現在、第2号被保険者(40歳以上65歳未満)1人当たりの保険料額は、

介護給付費の30%÷第2号被保険者数=1人当たり保険料額

の算式で計算されており、健康保険組合、共済組合、協会けんぽ、国民健康保険のどの保険者に属していても、被保険者1人当たりの保険料負担額は同じです。平成20年度の第2号被保険者の1人当たり負担額は月額で3,944円でした。

しかしながら、医療保険者間では、第2号被保険者の1人当たり報酬額は大きく異なります。例えば、平成20年度の決算データによると、第2号被保険者の1人当たり報酬額は、健康保険組合で年額平均463万円、協会けんぽで年額平均318万円となり、また、健康保険組合内でも上位10組合では年額平均825万円、下位10組合では年額平均279万円となり、負担能力は様々となります。

この報酬額を反映した保険料額を徴収しようとする仕組みが総報酬割です。厚生労働省の試算によると、第5期(平成24~26年度)平均の第2号被保険者1人当たりの負担額の月額見込額は、総報酬割を導入しない場合には4,900円となる一方で、完全に総報酬割を導入する場合には、健康保険組合で5,800円、協会けんぽで4,000円になるとされております。

また、3分の1の割合で総報酬割を導入する場合には、第2号被保険者1人当たりの負担額は、健康保険組合で5,200円、協会けんぽで4,600円となり、総報酬割の完全導入の場合1,300億円の、3分の1の割合で導入の場合430億円の国庫補助が不要になると試算されております。

その上で、厚生労働省は介護保険部会に対し、

  • 今後介護費用の増加に伴い、これを賄うための負担が増加する中で、負担能力に応じた負担の要素を強化していくことが必要ではないか。
  • 医療保険においては、様々な給付の見直しを行なった上で総報酬割を導入しており、昨年の議論においても、利用者負担の見直しを行うことなくこれを導入することについて慎重な対応を求める意見がありましたが、この点についてどう考えるか。

という点を論点として提示いたしました。

2.介護サービスの利用料引き上げについて

(1)要支援者の利用者負担について

社会保障・税一体改革においては、重度化予防・介護予防として要介護認定者数を2025年に現行ベースより3%程度減少させることが課題となっていますが、この実現に向けた制度的な対応として、予防給付について利用者負担割合を引き上げることについてどう考えるか、また、予防給付の内容や方法について検討が必要ではないか、という点が論点として提示されました。

(2)ケアマネジメントに係る利用者負担について

社会保障・税一体改革においては、自立支援にむけてケアマネジメントの機能強化を図ることとされていますが、この観点に立って、ケアマネジメントの利用者負担の導入はどう評価されるか、また、昨年の議論において利用者負担の導入についての懸念として挙げられたサービス利用抑制による重度化などの影響について、ケアマネジメントの専門性の観点からどう評価されるか、さらに、ケアマネジメントの機能強化に向けて制度的な対応の必要性についてどう考えるか、という点が論点として提示されました。

(3)一定以上所得者の利用者負担について

「世代内(特に高齢世代内)での公平の確保、所得再分配機能の強化を図る」(「社会保障・税一体改革成案」)観点から、一定以上の所得がある者については、利用者負担割合を引き上げることが必要ではないか、また、利用者負担割合を引き上げる場合、対象となる「一定以上の所得がある者」の範囲についてどう考えるか、という点を論点として提示する一方で、厚生労働省は、高所得者の水準について、介護保険における保険料第6段階の第1号被保険者、つまり、年収320万円(合計所得金額200万円)以上を1つの目安として示しました。

(4)多床室の給付範囲について

社会保障・税一体改革においては、居宅に近い居住環境の下で、居宅における生活に近い日常生活の中で入所者一人ひとりの意思と人格を尊重したケアを行い、要介護高齢者の尊厳の保持と自立支援を図る施設のユニット化を進めることとしていますが、厚生労働省は、これに対し以下の論点を提示いたしました。

  • 室料相当について全額負担する個室ユニットと介護報酬で手当されている多床室との不均衡を是正し、施設のユニット化を進める観点から、多床室の入所者にも一定の室料負担を求めることが必要ではないか。
  • これと併せて、低所得者のユニット型個室への円滑な入所が確保できるよう、負担軽減についての検討が必要ではないか。
  • 多床室入所者から一定の室料負担を求める場合、低所得の入所者の負担について配慮する必要があると考えられるが、どのような措置が適当と考えられるか。
(5)補足給付における試算等の勘案について

「世代内(特に高齢世代内)での公平の確保、所得再分配機能の強化を図る」(「社会保障・税一体改革成案」)観点から、在宅や居住系サービス利用の場合は自己負担となる居住費について、施設入所の場合には補足給付により助成を受ける一方、その結果保有する居住用資産や預貯金が保全されることについて見直しが必要ではないか、また、昨年の議論においては、正確な資産把握の困難さや保険者の事務負担の増加等への懸念が示されてましたが、上記の観点に立って、具体的に運営可能な仕組みの検討に着手すべきではないか、という点が論点として提示されました。

(6)軽度者の施設入居の抑制

要介護度1や要介護度2の場合、特別養護老人ホーム等の施設での介護サービスの平均給付額が、在宅での介護サービスの支給限度額を上回っていることから、介護をそれほど必要としない軽度者の施設入居を抑制してはどうか、という点が論点として提示されました。

3.1号保険料の低所得者の保険料軽減強化について

厚生労働省より、以下の点が論点として提示されました。

  • 現行の保険料は、所得段階別に原則として6段階設定となっており、被保険者の所得が低い場合には、保険料負担も低くなる仕組みとなっています。
  • 今後、高齢化の進行に伴い保険料水準も上昇することを踏まえ、どのような考え方で低所得者の保険料軽減の強化を図っていくか。
  • 保険者によっては、現行の保険料段階は維持した上で、資産や扶養義務の状況から負担能力がないと認められるものについて、基準額に乗じる割合を更に引き下げるという方法をとっているが、このような方策で保険料軽減の強化を図ることについてどう考えるか。

(参考資料)
社会保障審議会介護保険部会(第39回)提出資料より(平成23年10月31日)

【2011.10.22】
中医協と介護給付費分科会との打ち合わせ会

平成23年10月21日、中央社会保険医療協議会(中医協)と社会保障審議会介護給付費分科会は、2012年度に行われる診療報酬と介護報酬の同時改定に向けて初めて意見交換会を行いました。診療報酬は2年に1度、介護報酬は3年に1度、改定が行われることとなっていることから、2012年度には6年に1度となる診療報酬と介護報酬の同時改定が行われることになりますが、この意見交換会においては、診療報酬と介護報酬の同時改定に向けて、以下のような論点及び課題等が議論されました。

1.医療・介護施設の機能分化と連携の推進

(1)入・退院時における医療機関と介護サービス事業者との連携促進
論点・課題

入院中から、退院後の療養生活支援を視野に入れた

  1. 入院診療計画や退院支援計画の策定
  2. 在宅医療を担う医療機関や訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所との連携

などについて、どのように考えるか。

(2)介護療養病床から介護療養型老人保健施設等への転換促進
論点・課題
  • 療養病床再編成をより一層進めるために、介護報酬、診療報酬上どういった対応が考えられるか。
(3)介護施設における医療提供のあり方
論点・課題
  • 介護施設においては、その類型に応じて医療の提供体制が異なるが、施設入居者等の現状に応じて、医療提供のあり方についてどのように考えるか。

2.在宅医療・介護の充実

(1)訪問看護・リハビリ等の要介護者等の在宅生活における医療提供
論点・課題
  • 在宅生活者に対する医療を強化するため、訪問看護、歯科治療、薬剤管理指導やリハビリテーションの提供のあり方について、どのように考えるか。
(2)看取りへの対応
論点・課題
  • 在宅や介護施設等における看取りの対応を強化するため、在宅療養支援診療所等を活用し、地域における24時間対応や緊急時の対応が可能な体制を構築するため、診療報酬、介護報酬上どういった対応が考えられるか。
(3)認知症への対応
論点・課題
  • 認知症への対応を強化するために、早期の診断から個別の診療、在宅復帰に至る過程において、医療と介護が連携した上で、適切なサービスを提供するために、どういった対応が考えられるか。
  • BPSD(周辺症状)への対応等、医療機関における認知症患者に対する医療についてどのように考えるか。
  • 認知症対応型共同生活介護や小規模多機能型居宅介護における医療提供のあり方についてどのようにう考えるか。

なお、中央社会保険医療協議会は、医療と介護の連携の議論に必要な視点として、以下の点を挙げています。

  • 医療と介護の連携のあり方について、今までは、個々の医療機関の間、医療機関と介護サービス事業者の間、さらには特定の職種の間の連携をそれぞれいかに評価するかという視点で議論されてきましたが、このような個々の取り組みを診療報酬や介護報酬において限定的に評価するだけでは、サービス利用者の自立した日常生活を実現させていくには必ずしも十分ではなく、医療・介護の連携を真に意味のあるものにするためには、個々の局面での連携を超えて、地域の医療や介護に携わる数多くの職種が協力して患者・利用者の情報を共有し、患者・利用者およびその家族と同じ目線で支え合うという「ネットワーク型」の連携システムが必要であること。
     
  • また、このような連携システム構築のためには、医療と介護に関わる人、モノ、組織、情報を包括的にコーディネートする役割が決定的に重要であることから、地域全体の医療と介護のコーディネート役を担う地域連携拠点(ハブ)を一定の圏域ごとに設置することが不可欠ですが、現行の診療報酬体系では、基本的に個々の医療行為に点数を設定しているため、このような連携拠点を核とした地域における包括的なネットワーク構築の取り組みが明確に評価される構造になっておらず、制度的かつ財政的な手当が行われていないこと。

(資料出典)
「中央社会保険医療協議会と介護給付費分科会との打ち合わせ会」資料より
(平成23年10月21日)

【2011.10.18】介護サービスの
基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律

「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が平成23年6月15日に成立し、同年6月22日に公布されました。

当該法律は、高齢者が地域で自立した生活を営めるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供される地域包括ケアシステムの実現に向けた取組を進めることを主な内容とするものであり、その概要をまとめると以下の通りとなります。

(1)医療と介護の連携の強化等
  1. 医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが連携した要介護者等への包括的な支援(地域包括ケア)を推進。
  2. 日常生活圏域ごとに地域ニーズや課題の把握を踏まえた介護保険事業計画を策定。
  3. 単身・重度の要介護者等に対応できるよう、24時間対応の定期巡回・随時対応サービスや複合型サービスを創設。
  4. 保険者の判断による予防給付と生活支援サービスの総合的な実施を可能とする。
  5. 介護療養病床の廃止期限(平成24年3月末)を猶予。(新たな指定は行わない。)
(2)介護人材の確保とサービスの質の向上
  1. 介護福祉士や一定の教育を受けた介護職員等によるたんの吸引等の実施を可能とする。
  2. 介護福祉士の資格取得方法の見直し(平成24年4月実施予定)を延期。
  3. 介護事業所における労働法規の遵守を徹底、事業所指定の欠格要件及び取消要件に労働基準法等違反者を追加。
  4. 公表前の調査実施の義務付け廃止など介護サービス情報公表制度の見直しを実施。
(3)高齢者の住まいの整備等
  1. 有料老人ホーム等における前払金の返還に関する利用者保護規定を追加。
    ※厚生労働省と国土交通省の連携によるサービス付き高齢者向け住宅の供給を促進(高齢者住まい法の改正)。
(4)認知症対策の推進
  1. 市民後見人の育成及び活用など、市町村における高齢者の権利擁護を推進。
  2. 市町村の介護保険事業計画において地域の実情に応じた認知症支援策を盛り込む。
(5)保険者による主体的な取組の推進
  1. 介護保険事業計画と医療サービス、住まいに関する計画との調和を確保。
  2. 地域密着型サービスについて、公募・選考による指定を可能とする。
(6)保険料の上昇の緩和
  1. 各都道府県の財政安定化基金を取り崩し、介護保険料の軽減等に活用。

なお、(1)5.、(2)2.については公布日施行、その他は平成24年4月1日施行です。

さて、上記(2)3.で示した通り、当該法律では、介護事業所における労働法規の遵守を徹底し、事業所指定の欠格要件及び取消要件に労働基準法等の違反者を追加することとされましたが、下表から、労働基準法等の違反事業場比率は、社会福祉施設では77.5%となっており、全産業の68.5%を上回っていることがわかります。

特に、労働基準法37条違反(割増賃金不払)の事業者比率が、社会福祉施設では35.8%となっており、全産業の18.1%を大きく上回っていることには注意が必要です。

労働基準法等違反事業場比率(平成20年)
 

社会福祉施設

全産業

違反事業場比率

77.5%

68.5%

労働基準法24条違反(賃金不払)

5.8%

3.2%

労働基準法37条違反(割増賃金不払)

35.8%

18.1%

最低賃金法4条違反(最低賃金不払)

4.7%

2.8%

また、下表から、労働基準法違反による社会福祉施設の送検についても少なからず存在することがわかります。

労働基準法違反による送検事件状況(社会福祉施設)

平成18年

平成19年

平成20年

11件

15件

11件

このように、介護人材の確保を図るためには、事業者による労働環境整備の取組を推進することが重要ですが、介護事業を含む社会福祉関係の事業は、全産業と比較して労働基準法等の違反の割合が高いことがわかります。

平成24年4月1日からは、事業所指定の欠格要件及び取消要件に労働基準法等の違反者が追加されることとされましたが、労働基準法等に違反している事業所においては、平成24年4月1日からの当該法律の施行にかかわらず、早急に法違反の状況を是正し、健全な事業所経営をすることを肝に命ずべきであることは言うまでもありません。

(資料等出典)
第76回社会保障審議会介護給付費分科会資料(平成23年6月16日開催)

【2011.10.9】現在の我が国の国民負担率

本年7月1日に『社会保障・税一体改革成案』が閣議報告されたことは記憶に新しいですが、この『社会保障・税一体改革成案』においては、「社会保障給付の規模に見合った安定財源の確保に向け、まずは、2010年代半ばまでに段階的に消費税率(国・地方)を10%まで引き上げ、当面の社会保障改革にかかる安定財源を確保する」ことが政府の方針として決定されました。

このように消費税の引き上げが政府の方針として閣議報告されましたが、消費税の引き上げが実現するかどうかについては、今後も予断を許さない状況にあると考えられます。
しかしながら、今後、大幅な増加が予想される社会保障給付費等を考えれば、将来的に国民一人ひとりの負担が重くなっていくことは間違いないといえるでしょう。

将来的に増加していくことが予想される国民の負担ですが、現在、どれくらい費用の負担を負っているのかを端的に表した指標が国民負担率です。国民負担率とは、国民所得比でみた租税負担と社会保障負担の比率の合計を表すもので、

国民負担率=租税負担率+社会保障負担率

と表せます。

また、財政赤字を考慮にいれた国民負担率を潜在的な国民負担率といい、潜在的な国民負担率は、

潜在的な国民負担率=国民負担率+財政赤字国民所得比

と表すことができます。
現在の我が国の国民負担率を諸外国と比較してみてみると、以下の表のようにまとめることができます。

(国民所得費:%)

日本

アメリカ

英国

ドイツ

スウェーデン

フランス

社会保障負担率

16.8

8.6

10.5

21.7

12.1

24.3

租税負担率

22

24

36.2

30.4

46.9

36.8

国民負担率

38.8

32.5

46.8

52.0

59.0

61.1

国民負担率(対GDP比)

28.1

26.4

37.3

39.3

43.7

45.2

財政赤字対国民所得比

-11

-7.4

-6

0

0

-4.5

潜在的な国民負担率

49.8

39.9

52.8

52.0

59.0

65.6

潜在的な国民負担率

(対GDP比)

36.2

32.3

42.1

39.3

43.7

48.5

参考
 日本アメリカ英国ドイツスウェーデンフランス

付加価値税率

5%

17.5%

19%

25%

19.6%

高齢化率

23.1%

13.0%

16.6%

20.5%

18.3%

17.0%

(注)

  1. 日本は2011年度見通し。諸外国は2008年実績。
  2. 財政赤字の国民所得比は、日本及びアメリカについては一般政府から社会保障基金を除いたベース、その他の国は一般政府ベースである。
  3. ※アメリカの付加価値税率は、州、郡、市により小売売上税が課されている。
  4. 高齢化率については、2010年の推計値を掲載している。

(資料出典)『厚生労働白書平成23年版』

厚生労働白書平成23年版では、日本の国民負担率は、英国とアメリカの中間くらいの比較的低い水準にありますが、財政赤字を考慮にいれた潜在的な国民負担率は、英国、ドイツと同程度となり、スウェーデン、フランスより若干低くなる水準にあると分析しています。
また、国の債務まで考慮すると日本にも諸外国並みの負担があることになり、かつ国債部分はその負担を後代に先送りしていることになることを指摘しています。

日本の消費税率(付加価値税率)は他の諸外国と比較するとまだ低い水準にあり、かつ、国民負担率も比較的低い水準にあることから、一見すると消費税率の引き上げの余地があるように思われますが、財政赤字を加味した潜在的な国民負担率は、厚生労働白書の指摘する通り、他の諸外国と比較しても十分低い水準にあるということはできず、注意が必要であると考えられます。

社会保障給付の規模が現在のように高い水準となり、今後も拡大していく傾向にある状況からすれば、消費税率の引き上げはやむを得ないと考えられますが、その一方で、財政赤字を確実に減らしていく努力も求められるでしょう。

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